こんなことしてて良いのかって? わかってたって、俺は自分の気持ちに正直でいたいさ。 |
LOVE OR LUST |
「良いのかよ?中西」 部屋を出ようとしたその時、後ろで根岸がそう言った。 「何が?」 俺は振り返ってニッと笑ってそう返した。 「……渋沢と三上がギクシャクしだしたのって、お前の所為だろ」 根岸は咎めるような目でそう言った。 「関係ねぇな。あいつらはあいつらだろ。で、俺は俺」 俺はそう嘯く。 「そうは思えないけど?」 根岸が疑い深そうな眼差しで見てくるのを流す。 「何処が?てか、別にそう問題ねぇじゃん。大体今まであの二人、仲良すぎたんだよ」 事情をすべて知っているけど、俺はそう言った。 ていうか、ネギ。 お前こそどこまで気がついてんだよ。 ……さすがにそれを言うのは止めたけど。 「代返、よろしくー」 俺はそう片目を瞑ると、ドアを開けた。 多分閉まったドアの向こうで溜息をつかれていることは容易に想像できた。 ・・・・・ 休み時間にメモを渡した。 黙って受け取った三上。 俺は寮の空き部屋に呼びつけたのだ。合鍵は随分前にこっそりと作っていた。……バレたらとんでもないことになるだろうけど、そんなヘマはしない。 三上が来るのを待っている間に、ポケットからタバコを取り出して火を点けた。ほとんど灯りをつけていない部屋の中で、その火だけが浮いている。 そして、俺は少しだけ開けた窓から紫煙が出ていくのを見つめる。 ……身体に悪いと知っていても止められない、タバコ。 「これと同じかな」 なんて、呟いて。何が同じなのか思い出して。 失笑。 ……ったく、らしくないかもな、とは思う。 一人に執着するなんて。 あの日、弱みにつけ込んで三上を自分のものにした。 渋沢に慣らされたのであろうその身体は結構良かった。 言いはしなかったけど。 ――癖になる。そんな感じ。 そんなことを考えていると、ひっそりとドアが開いた。 「中西」 表情を強ばらせた三上が入ってくる。 皆の前では、以前となんらかわりがないように接しているモノの。二人っきりになると三上は途端変わる。どこか怯えたようなその様子。 ……それも随分と可愛いモノで。 俺は三上にニッと笑うと話しかけた。 「お前も吸うか?」 ……吸ったことがないなんて言わせねぇぜ? 俺はそう続けた。 そう、俺は三上がたまに吸っているのを知っている。まぁ、大抵コトを済ませた後、俺のを持っていって吸っているのだが。 ……そうでもしなけりゃ、三上にとってはやりきれないのだろう。 寝たふりをして見た、その三上の物憂げな表情は結構気に入ってた。 と、俺はふと思いついて言う。 「ああ、それともこっちの方が良いかな」 そう言ってタバコを一口吸って、そのままキスした。途端、噎せてゴホゴホと咳き込む三上。 ようやくそれが収まったかと思うと、俺を睨みつけてくる。 だけど、咳き込んで潤んだ瞳になってるその表情じゃ、逆効果。 「何すんだよ!」 三上はそう抗議してきた。 「何って……ナニに決まってんだろ」 そう言ってニヤリと笑い、三上の身体を押し倒した。 「嫌だっ」 全身で抗ってくる。それに 「……良いのか、喋っても?」 と言ってやれば、三上は黙った。 そして、されるがままになる。 着ていた服をはぎ取って、痕はつけないにしても、身体中に唇を這わせて、すべてに掌で触れて。 身体の中心の熱を煽って追いつめて、解放してやる。 ……三上の瞳に浮かぶのは涙。 それを舌で掬い取ってやれば、三上はその身を震わせた。 そして、中を侵食すれば、どうしようもなくなったのか、俺の背中に手を回してくる三上。 「三上」 呼んでもただ首を振ることしかできないようで。 汗ばむ声、喘いだカラダ。 いつもの表情なんて、嘘に思われるほど。 幼くて、可愛くて、哀れ。 どこまでも狂わせてしまいたくて、一層深く抱く。 揺さぶって、突き上げて。 ……やがて訪れる絶頂。 「渋沢……」 三上が意識を手放す瞬間そう言ったのを俺は聞き逃さなかった。 ――バカだな、三上。 そんなにもアイツに囚われてさ。 永遠なんてどこにもありゃしねぇのに。 温もりだったら誰かでも代用できるのに。 それでも信じてるとでも言うのか? どうせアイツだって時が来ればお前から離れていくんだろうに。 ・・・・・ 「そんなに渋沢が良い?」 意識を取り戻した三上に俺はそう訊いた。 「……」 三上は答えない。ただその表情がしっかりと答えを示していた。 「可愛いよな、そういうとこ。ムキになってさ」 俺はニヤッと笑ってそう言った。俯く三上。しばらくして、 「……お前こそ、なんでそんなに俺に構う」 三上はそう言った。俺の目は見ないで。 俺はその様子をじっと見つめて、 「そうだな。あえて言うなら面白いから。そんだけ」 そう答えた。 「……んでだよ。お前なら女だって幾らでもいるじゃねぇかっ」 確かに、俺が女好きだってのは結構知られた話だ。 「もう放っておいてくれ」 絞り出すような声で三上が言った。 それに対し。 「そうはいかねぇな」 俺はそう言っていた。そしてニヤっと笑う。 三上は怯えたような顔を見せる。 それに今度はにっこり笑って、その三上を抱き寄せた。その腕の中で三上は必死に抗う。 構わず、 「俺だって求めてはいるぜ?」 と、俺はそう言った。 「え?」 その言葉にひるんだ三上。抗うその手がぴたりと止まった。 ――そう最初は単なる好奇心、対抗心。 それがいつの間にか、求めてやがる。 何もかも奪って滅茶苦茶にしてやりたいくらいに。 ……って、俺も結構バカ。 Love or Lust? ……この気持ちを一体何というのかわかりゃしねぇけど。 確かに求めている。 そして、その気持ちに逆らう気はさらさらない。 誰を敵にしても。 「だからさ……」 俺はそう耳元で囁いて、再びシーツの海に三上を沈める。そしてその耳をはんで、続けた。 「帰さない」 (Fin) |