Distance





 俺にとって武蔵森で初めて迎える定期試験の成績発表日。
「すっげー!水野、上位デビューじゃん」
 藤代が俺の肩に手を置いてひょいと背伸びをしながら、廊下に張り出されたばかりの成績表を見てそう言った。
「そりゃどうも。けど、お前だって上の方じゃないか」
 俺が振り返ってそう返せば、手をヒラヒラと横に振って否定し、
「全然。俺、今回数学が納得いかなくてさー。何かコツでもあんの?教えてよ」
 そう口を尖らせる藤代。それに軽く笑って俺ははぐらかす。
「ちょっとな」
「えー?教えて」
 藤代はそう迫ってきたが、三上に教えて貰ったと言うのは何だか俺が照れくさいのと、この藤代の様子だと何で教えたと三上に怒られそうで、
「内緒」
とだけ言って沈黙を守ることにする。が、それくらいで諦める藤代じゃない。
「ケチ。…じゃ、吐かせてみよっ」
 そう言った瞬間目を輝かせて、俺の脇腹をくすぐろうとする藤代。その手を何とかかわそうとするが人の多い廊下でそんな器用なことは出来ずくすぐられて、たまらずギブアップしそうになったところで、パンッと良い音とともに藤代の手が離れた。
「これはまた随分と仲のよろしいことで」
 そんなワザとらしい声と共に現れたのは、丸めたテキストを片手にした三上だった。
「ちょっ、いきなり酷いッスよ三上先輩!」
 そのテキストで叩かれたとみられる頭をさすりながら猛抗議する藤代。が、三上はそれを鼻で笑う。
「ハン、気配に気がつかねーお前が悪い。てか、お前邪魔」
 嘲笑ってそう言う三上に、藤代はビシッと指差して宣言した。
「…ったく、相変わらず強引っスね。2年のはあっちですって!」
「いやぁ、馬鹿な後輩の成績を見てやろうと思ってさー」
 三上はニヤニヤと笑ってそう返す。それを聞いて顔をしかめた藤代は、
「趣味悪ー。残念でした、今回もちゃんと上の方に名前ありますからね、俺」
 そう言ってアッカンベーまでしてた。が、三上はそれに呆れ顔で返す。
「誰もお前とは言ってないじゃん。それとも馬鹿って自覚まであんの?可哀想に。順位も落ちてたもんな、藤代君は」
 これまたワザとらしい溜息と吐きながら、ご丁寧にハンカチ取り出して泣きまねまでする。それに藤代もキレたらしい。こう言い返すのが廊下に響く。
「馬鹿馬鹿って!馬鹿って言うヤツが馬鹿なんスよ!」
「…小学生かよ」
 思わずそう突っ込んでしまって、そう言えばこいつら顔を合わすたびにこれじゃ、小学生以下かもしれないと思ってみたりする。幸い俺のツッコミは聞かれてはなかったようで、不毛な言い合いの矛先が俺に向くことはなかったけれど、あれも仲が良いってことの一つなんだろうな、騒がしいことだけど、などと思って苦笑する。
 しかし、藤代はともかく、三上が騒いでるのを見るのはどうも落ち着かない――意外な素顔を垣間見た所為だろうけど――。やれやれと俺がまぎれもない溜息を吐いてみれば、肩にポンと手が置かれ、後ろから声を掛けられる。
「なんだ?成績の話か?」
「…だった筈なんですけどね、渋沢センパイ。見ての通り、小学生の喧嘩」
「相変わらずか」
 渋沢は俺の言葉に笑って答えた。その声は藤代の耳に届いたらしい。
「渋沢先輩!見ましたよ、先輩の。相変わらずッスね」
 三上との不毛な言い争いをピタリと止め、渋沢に明るく笑って駆け寄る。が、渋沢はその笑顔に真顔で一言。
「お前、少し落ちたろ」
 その言葉に明らかに落ち込む藤代。
「酷っ、渋沢先輩まで。これでも気にしてるのに」
 その様子に三上はニヤニヤと笑っているが、渋沢は悪いことをしたと言わんばかりに、
「それはすまん。いや、ちょっと心配でな」
とフォローする。それを聞いて、
「大丈夫ッス。…けど、数学が思ったより点伸びなかったんですよ、今回」
 渋沢に泣きつかんばかりの藤代。だが、それに後ろからこんな声がかかった。
「…直前にゲームやってたからだと思うよ、誠二」
 いつの間にか来ていた笠井がぼそっとそう言って、そのまま去っていった――笠井も少々変わったヤツだ――。それも皆慣れているのか去ってく笠井をそのままスルーして。
「だって、あれは中西先輩が!」
 藤代が誰にともなくそう弁解してみせたら、
「ハハーン。そりゃ、中西にはめられたな」
と、ニヤっととてつもなく楽しそうに笑う三上。
「うげっ、またやられた!この前は騙されてニンジン食わされたし」
「騙されたも何も、結構美味そうに食ってたじゃん、キャロットケーキ。なあ、水野」
 突然こっちにふられても困るんだけど、と思いながらも俺は答えた。
「途中までは、な」
 それに三上はうんうんと頷き、成績を確認していた。
「そうだと言われなきゃ最後まで食えたのに。知ったらもう…ああ、思い出すだけで吐き気がー」
 藤代はそう言いながら、記憶をも払う勢いで首をブンブンと振っていた。が、その藤代の肩にポンと手を置いた渋沢はこう言った。
「しかしまぁ、ある程度は気分転換も必要だが、これからはゲームも程々にしておけよ、藤代。あと好き嫌いももう少し直そうな」
 父親か教師のような口ぶりで渋沢にそう言われては藤代も大人しく、はい、と返事をするしかない。
「…おっ、坊ちゃんは上位デビューか。こりゃパパも安心だな」
 藤代と渋沢のやりとりに構わず成績を見ていた三上がそう声を上げ、俺を振り返った。
「おかげ様で」
 俺がそうやってニッと笑えば、三上も同じように笑った。それにおやっと顔をした藤代と渋沢。
 程なく予鈴の鐘が鳴った。

 今日は久しぶりの半日オフ。入学以来ほとんど休みはなく、あっても実家に帰るくらいだったから、たまには街に出ようかと思いとりあえず下へ下りてみれば玄関で出かけ姿――黒いコットンニットにオフホワイトのチノパン姿で手にはジャケットとポーターのトートバッグ――の三上とぶつかる。
「出かけるのか?」
 俺がそう声を掛けると三上は頷き、ジャケットを羽織った。
「ああ。頼まれものの買出しと、ウィンドショッピングってやつ?」
 そう答えながら靴を履くその後ろ姿に俺は言った。
「俺も一緒に行って良いか?」
 それを聞いて一瞬キョトンとした三上は、次の瞬間軽く笑って
「別に構やしないけど」
と返事をした。
「じゃ、支度してくる」
「ああ」
 そう頷いた三上にくるりと背を向け、自室に戻るとクローゼットに掛けてあった上着を取って、財布と携帯をジーパンのポケットに突っ込むと急いで玄関へと戻った。
 ――天気は晴れ。時々雲が陽を遮って涼しい風が吹くけど、それでも陽射しは眩しい。先を歩く三上の後をついて行く。しばらく歩いて駅に着いて、券売機の前で俺は三上を呼び止めた。振り返った三上に訊く。
「どこまで?」
「新宿。あ、切符一緒に買っといてやるよ」
 そう答え俺が礼を言うまもなく三上は券売機を操作する。そして、目の前に切符を差し出される。
「ほらよ」
「どうも」
 受け取り、三上に続いて改札をくぐった。すぐに来た列車に乗る。座ることが出来なかったので吊革につかまっていると、横で三上が携帯を弄り始めた。だが、どうやらメールやゲームではなさそうだ。…あの店は置いてたっけな、などと独り言を言っていたので。
「何、それ」
と俺が訊くと見ていた携帯から顔を上げて三上は答えた。
「買出しリスト。渋沢のヤツ、どうも忙しいらしくてさ。よく頼まれるんだよ」
 それを聞いて俺は、へぇ、と思わず口に出してしまう。
「そうなんだ。…まとめ役は大変だな、せっかくの休みだってのに」
 俺がそう言うと三上は全くだと頷く。
「…まったくだ。休みくらい休みゃいいのにな。あいつクラス委員とか生徒会とかやたらそういうもん押し付けられて、しかも引き受けたものはちゃんと全部真面目にこなすもんなぁ。ほとんど雑用押し付けられてるようなもんなのに、よくやるよ」
 苦笑まじりに、どこか親しみを潜ませながら三上が言うその渋沢の様子は俺にも容易に想像出来る。東京選抜でもキャプテンを決める時に、我こそはと言い争う連中を宥めに入る渋沢を見て、全員一致で決めたあの時を思い出しながら、俺は答えた。
「言えてる」
 俺がそう笑っていると三上はニッと笑って俺を見て言った。
「けど、お前もそのうち他人事じゃなくなるかもよ?」
「…俺が?」
 思わず聞き返すと、頷いて三上は続ける。
「有望な1年は藤代、笠井、間宮ってとこだろ?まぁ、間宮はあの性格だし、藤代が妥当だろうけど、渋沢と違ってあれにはどうしても補佐する人間が絶対必要になるだろうさ。監督にさえ遠慮ないからその間に入る人間もいるだろうしな。…となると、やっぱ残るは笠井とお前じゃねぇの」
「そうか?」
 俺が訝しげにそう言えば、三上は逆に訊いてきた。
「伊達に2年で上水のキャプテンやってたわけじゃないんだろ?」
「まぁ、色々あったんだけどな、風祭が来て…」
 そう答えかけて久しぶりにその名を口にして、胸に少し痛むものがあった。ドイツで元気にやっていると手紙をくれて、ようやっと安心することが出来たが、それでも今、俺がここ――武蔵森――に居ることを考えると正直複雑なものはある。
 俺の表情が僅かに歪んだのを気がついたのだろうか。三上は
「…そうか」
とだけ静かに言い、柔らかく目を細めて俺を見た。その表情はまるで「大丈夫だから」と言ってくれているようだ。けれどそれは一瞬のことで、すっとさりげなく俺から視線を外してくれたから、俺は心からほっとすることが出来た。気持ちを伝えるアイコンタクト、そんな感じだった。
 そして思う。どうして三上はこんなに俺のことを判ってくれるのだろうか。三上のさりげない優しさ、気遣いはシゲのものにもよく似ているけど少し違って感じる。その違いが何なのか、どうしてそう感じるのかは上手く説明は出来ないけれど。不意に伝わる優しさを俺はいつの間にか素直に受け入れている。

「…お前さ、付いてこなくても良いよ。見たいもん見て来いよ」
 紀伊国屋のサッカー雑誌のおいてあるフロアで、三上が俺を振り返って呆れ声で言った。確かに寮を出てからずっと三上の後ろについて歩いていて、さながらマンマークだ。実は自分でもそう思っていて、ミステリィ小説を探しに文庫や新書のフロアに行きたかったのだが、こう答えた。
「いや、後で探すの面倒だし」
 そのことで躊躇われていたのだ。それを聞いた三上は苦笑して返した。
「そんなん、携帯で連絡すりゃ良いじゃん」
 …それは仰る通りで、俺も一応携帯は持っていたが番号を知らないんじゃ連絡の取りようもない。
「俺、お前の番号知らないんだけど」
 俺がそう言えば
「あ、それもそうか。…ほらよ」
と、三上も納得して携帯を取り出す。その三上が差し出した携帯のディスプレイの番号をすばやく自分のものに打ち込んで登録した。
「俺もちょっと他に見たいものあるから、また後でな」
「判った」
 俺の返事に背を向けながら片手を上げて、三上はエスカレータの方へと歩いていった。
 好きな作家の新刊を買ってから、前から気になっていたメフィスト賞受賞者のノベルスを立ち読みしている時に携帯のバイブが着信を知らせた。一旦本を戻し、売り場を離れて掛け直すと1階で待っているとのことだったので、やっぱり本は買うことにして――ミステリィはやっぱり立ち読みする本じゃないとはするたびに思うのだが、つい――、レジで会計を済ませてから降りていった。
 両手に袋を抱えて、携帯のメモに目を落とす三上に声を掛けると、ニッと笑って応える。
「はーい、次は高島屋ー」
 そんな冗談を言う三上の後を、人で溢れる新宿の街を掻き分けるように歩いて、高島屋へと辿りつく。地下の食料品のところで明らかに頼まれものと思われる――玉露とか誰のものなんだろう、それも2個も。渋沢以外に居たっけ?――買い物をする三上を見ながら、自分もつい紅茶の葉を買ってしまう。
買い物が一通り済んだところで、高島屋に来たのなら行きたいところがあって、俺は三上に提案してみた。
「なぁ、お茶でもしてかないか?」
「良いぜ」
 あっさりと頷かれ、アテがあるのかと訊かれて俺は答える。
「俺が良く行ってた店で良い?」
「ああ」
 頷いた三上を従えるような格好で着いたのは、ティールーム。店の前のメニューを見た三上が俺を振り返って、
「まぁまた坊ちゃんらしい店の選択で。つーか高くねぇ?」
 そう眉を顰めた三上に俺は答えた。
「俺が出すから」
「何で」
 訝しげに俺を見る三上。
「この前のノートのお礼、してなかったからさ」
 それを聞いた三上は眉間に皺を寄せたまま呆れ声で返した。
「別に貸し作った覚えねーし。だったらファーストフードくらいで良かったのに」
 確かに、何だか仰々しくなってしまった。だったらと、俺は言い方を変えてみることにした。
「…俺が食べたいから付き合って。お礼も兼ねて今日は俺が出すからさ」
 俺がそう笑って言うと、三上はふっと軽く溜息を吐いて苦笑まじりに言った。
「仕方ねーな、坊ちゃんは。じゃ、お言葉に甘えてそうさせて貰いますかね。…ホントは俺、甘いモンあんまし得意じゃねぇけど」
 そう言われて思い出した。
「え?そう言われてみれば寮でもそうだよな。けど、あの時のプリンは?」
 半ば呆れ声で三上はこう返す。
「まだ覚えてたのかよ。まぁ、プリンなら食える。…ああ、その手があるか」
 そう言いながら、気がついて三上は俺を見た。それに俺は頷いた。近付いてきた店員に案内された奥の窓側の席に着いて、メニューを確認してから
「レアチーズケーキとアールグレイ、それからホットコーヒーとクレームブリュレでお願いします」
と、オーダーした。
「クレームブリュレって?」
 店員が去ってから三上が俺に訊いてきた。
「プリンの一種…だと思う。多分」
 程なく運ばれてきたケーキと飲み物。ティーポットの蓋を開けると紅茶の良い香りがした。入寮以来しばらく嗅ぐことの出来なかった品のある香り。
「まぁ確かにプリンも色々種類あるもんな。しかし、お前本当に甘いモン好きだな」
 俺のレアチーズケーキを見て三上は言う。俺は言い訳するつもりじゃないがこう返した。
「うち、女ばっかだからさ」
 プリンを口に入れながらそれを聞いて、え?という顔をした三上。
「姉妹いんの?」
「…自分のならまだ良かったかもな。母の妹だから、色々とな」
 寮生活で良い所があるとしたら、かしましい伯母と叔母に構われないで済む所だろうか。勿論家族だし悪い人達じゃないんだが、思春期の男心も少しは理解して欲しい、などと思い出したら知らず溜息が出ていた。
「大人の女ばっかか。それはまた大変なことで。そりゃ詳しくなるよな、こういうの」
 苦笑まじりの俺に、ニッと笑う三上。…そういえば、三上の家族の話は聞いた事がない、人伝にも。だからシゲや風祭のようにどこか謎めいて感じるのかもしれない。
 俺がチーズケーキを食べながらぼんやりとそんなことを考えていると、三上はちらり俺の横の紙袋を見て訊いてきた。
「で、お前は欲しいもん買えたのか」
「ああ、おかげさまで」
 俺がそう答えると、三上はニヤニヤと笑って言った。
「しかしまぁ、いきなり付いてくるって行った時はビックリしたけど」
 確かに「一緒に行って良いか?」なんて今思い出せば顔が赤くなるくらい照れる。けど…。
「…お礼がしたかったんだよ!」
 それを聞いた瞬間三上はプッと吹くと、次の瞬間には大笑いした。思わず、他の客がこちらを見たし、そんな笑い方は初めて見たんじゃないかって言うようなくらいで。
「悪ぃ悪ぃ。そんなこと言われるとは思ってみなかったからさ」
 そう詫びられても、俺だってそこまで笑われるとは思ってもみなかったんだが。
「礼くらい素直にさせろよっ」
 思わずそう強く言い返してしまう。すると、真顔に戻ってコーヒーを啜りながら三上は、
「お前さ、そんな気を使わなくて良いんだぜ?俺だってそのつもりで貸したんじゃないし。困ったときはお互いさまって言うじゃん」
 そう諭すように言う。
「どうやってお礼したらいいのかよく判らなかったんだよ。他人に頼んだり借りたりしたこと、今まであまり無かったし」
 言いながら下を向いてしまう。恥ずかしい話だが、そんな当たり前の友人同士のやりとりを俺はしたことがなくて、考えた末がこのティールームなのだ。
「別にそんな大事に考えなくて良いんじゃねぇか?要は気持ちだろ。…本当に不器用だな、お前」
 俺の顔を見ないで三上はそう言った。ぶっきらぼうなその言い方、けどその言葉には俺を思うような感情が込められていて。
「……自分でもそう思う」
 俺はそう素直に頷いた。すると三上は、俺を見て笑うと、
「ま、俺も楽しかったから良いさ。たまには良いな、誰かと出かけるのも。美味いもん食えたし」
 そう言ってくれたので、俺は
「ありがとう」
と返した。それに三上は
「どーいたしまして」
 そうニッと笑う。
「あのさ。良かったらまた一緒に出かけないか?」
「良いぜ。ああ、そういやメアド訊いてなかったな」
 三上がそう言ったので俺は携帯を取り出し、互いのアドレスを交換した。

 ティールームを出て、CDショップで会計をしている俺を待っていた間、映画のDVDのポスターを見ていた三上が戻った俺に話しかけてきた。
「なぁ、チャンピオンズリーグ見た?」
 それに頷いて返す。
「見た。凄いゴールだったな」
「その前のプレイも良かったと思わねえか?」
「ああ。あれな」
 お互いMFだから言うことは良く判って、なんだか嬉しいような気分になる。三上もそうだったのだろう。
「せっかくだからKAMOにも寄ってこうぜ」
 笑顔でそう提案されたので、
「ああ」
と、俺も笑って頷いて、横を歩く。
 …気がつけばいつの間にか仲が良くなっている。二人の距離も少しずつ縮まっているような気がする。さっきまで後ろをついて歩いていたのが今はこう並んで歩いているように。
 距離が縮まれば、もっと三上のことを知ることも出来るのだろうか。ちらりと横顔を盗み見てそんなことを思う。やたら不機嫌そうだったり、あるいは不敵な笑みを振りまくその顔に隠されてる、優しさと繊細さ。

 ――もっと知りたい、もっと近づきたい。
 手を伸ばせばすぐ届くとこには居るけどその心まで届かない、今はまだ。
 それでも、少しずつ近づいている。このdistance。



2007.04.19UP