不本意にも2年連続で進出してしまった入れ替え戦。その1戦目、アウェイの戦いを迎えていた小瀬。先制したものの逆転され、何とか追いつこうと攻撃を続ける。降り出した雨にも気がつかないくらい、走ってボールを繋げて、そして、ようやっと回ってきた流れ。だが、それを断ち切るように、相手DFが味方MFをペナルティエリア付近で倒した、その刹那、暗転した世界は――













ブラックアウト









 ホーム最終戦になる筈だったヴェルディとの試合。ようやっとスタメンに時々顔を出すようになったもののベンチスタートの俺とは対照的に、スタメンをはっていた藤代の、あのいつもの明るい笑顔が段々と失われていくのを目の当たりにして。俺は改めて勝負の世界の恐ろしさを思い出した。
「一馬、行くぞ」
 勝ち試合のセオリー通りに呼ばれた俺の名。それに返事をして俺はウェアを脱いで、ユニフォーム姿になる。笛が吹かれて試合が中断し、俺はピッチの上へと駆け出した。
 流れは完全にうちに来ていて、気がつけばスコアは4−1。藤代に追いつきようなどない。なのに、勝っている気など俺にはしなかった。大差をつけられて、笑顔を失っても尚精彩をかくことのないそのプレーに、俺はむしろ恐れにも似た思いを抱く。それでも、負けたくない。その一心で追ったパスに足が届いた。軌道を変えたボールはゴールへと吸い込まれていく。湧き上がる歓声。チームメイトに揉みくちゃにされて、センターサークルへ戻る。
 それからまもなく終了を告げる笛が鳴った。
 ピッチの真ん中で挨拶をしていると、向こう側の藤代と目が合った。
「お疲れ。またね」
 すれ違いながら藤代はそう俺に言って、自らのサポの方へ向かって歩いていく。その言葉を出来るだけ軽く響かせて。その背中に向けて焚かれるフラッシュ。泣いていたのだろうかと、俺は振り返る。深々とサポに頭を下げるヴェルディの選手たち。その中の藤代。そんなライバルの姿は今まで見たことのないもので。
「一馬」
 明希人さんに呼ばれるまで俺はぼんやりと立っていた。

 …そう、その時は。まさか、自分もすぐに同じ立場に立たされるなどとは思ってもみなくて。
 試合は大勝したものの、他会場の結果によって俺達は最終戦を待たず入れ替え戦に行く事が決まった。なんとも後味の悪い勝利だ。
「これで、2年連続か」
 キャプテンがそう言った。
「大丈夫ッスよ」
 誰かがそう返したものの、この胸に過ぎる一抹の不安はなんだろう。それは日が経つにつれ、さざ波のように広がっていく。最終節のアウェイの試合でも監督の選手起用、指示の訳の判らなさは、相変わらずのもので。だが、そうは思っても俺達はやるしかない。そう思ってた筈なのに。
 甲府を甘く見ていたつもりはなかった、と言い切れただろうか。更には、予想も出来ないような照明が落ちるというアクシデント。後から思えば、もう、あの時に流れは断ち切られ、あちらに行ってしまったと言っても過言ではないだろう。そんな「もしも」という仮定をしてみたところで世界は何一つ変わりもせずに回っていくのだけれど、やっぱり言ってしまいたくなってしまうのが人の常。あの日、あの時、あのタイミングで照明が落ちなかったら俺達は、と。でなければ、せめて、あの直前のプレイを認めてくれていたのなら。…だが、それを言うのなら、初めから入れ替え戦に出なくて済む様な成績であれば良かった。それも言われるまでもなく判っていた。

 ホームに甲府を迎えた2戦目。スタメンを告げられ、ピッチに入ったその瞬間から覚えた違和感は、2点差以上で勝たなければならないという極度の緊張、あるいは悲壮感のようなものが漂っていたからだろうか。しかし、あっさりと先制を許してしまい、そのまま何かが音を立てて壊れていく気がした。
「一馬!上で張ってろ!」
 司令塔の明希人さんにそう言われた俺に出来ることは、本当に何も無くて。焦って。オフサイドラインに引っかかっては余計にイラついて。肝心なところでシュートを外しては、観客の溜息を誘った。
 ようやっと味方のゴールが決まった。が、喜びも束の間。相手の猛反撃を喰らうことになる。それは、悪夢のようだった。いや、夢なら醒めて欲しい。崩壊する守備に、ダブルハットトリックを許してしまう。
「こんな、こんな…」
と、下を向きそうになる俺達に、ただサポの
「下向くな!前向け!」
と言う叫びだけが届いて、何とか走ってボールを追う。限界まで追い求める。
 だが、無情にも長いホイッスルがスタジアムに響いて。受け入れがたい現実に、ピッチにガクッと膝をついて座り込んで、その力も無くしてバタッと後ろへ倒れた。
 …もっと出来たんじゃないか、こうなる前に。FWなら尚更。俺がもっと点を取れていたら。自分の不甲斐無さが悔しくて悲しくてたまらない。
 そうやって見上げた空はあまりにも遠くて、灯ったままの照明灯の光はぼやけて見えた。

 嗚咽を堪えて、こぼれる涙を必死で拭うロッカールーム。先輩MFにバサッとタオルを頭からかけられると、俺は尚のことたまらなくなったが、それでも何とか着替え始める。
「一馬。大丈夫か?」
 後ろから声を掛けられ振り返ると明希人さんが立っていた。
「一緒に帰らない?メシもどう?」
 いつもの明るい声も、今日は湿って響く。それに
「あ、はい。行きます」
と返事して、俺は片付けを急ぐ。
 明希人さんは妹さん――有希って言ってたっけ――が俺と同じ年だということもあってか、俺を可愛がってちょくちょく誘ってくれる。いや、明希人さんだけじゃない。このチームの人たちは皆、良くしてくれる人ばかりだ。
「お疲れ様でした」
「お疲れ」
 チームメイトと挨拶を交わしてロッカールームを出る。すると、なにやら慌しいスタッフ達にぶつかった。
「なんかあったんですか?」
 そうスタッフに訊くと
「サポが座り込みしてるらしい」
と、だけ返事が返ってきて、彼はそのまま走っていってしまった。その背中を見送って。
「不甲斐無い試合したからですかね」
 俺が傍らの明希人さんに言うと、
「…多分違うと思う」
 明希人さんはぼそっとそう呟いた。





 降格が決まった以上せめて、元日まで勝ち上がりたい天皇杯。だが、今日のこの神戸ウィングでの試合はリーグ戦を制したガンバ大阪相手だ。結人は既に中核選手となりつつある。当然、今日もスタメンだろう。試合開始直前にそう思いながら、歩いていると
「一馬!」
と、当の本人が俺を見つけて、駆け寄ってきた。結人らしい人なつっこい微笑み。が、それに微笑み返そうとして失敗した。恐らく俺は引き攣った顔をしていたのだろう。旧友だからと言っても今の俺に試合前に微笑みようなどない。だが、結人はそんな俺のピリピリした様子を察してくれて、何も言わずポンと肩を軽く叩いて挨拶に代えただけだった。
 そんな緊張の中始まった試合は、勝っていたのを見事にひっくり返された。
 それでも、挨拶にいったサポ達は温かかった。だからこそ、俺は申し訳ないという気持ちで一杯だった。それこそ、今後の去就など、考えようもないくらいに。

 そのままオフシーズンに入り、新年を迎えて、また一人また一人と主力選手達の移籍を知らされ、迷いながらも淡々と自主トレをする日々を送る1月初め。夜、携帯が鳴った。「はい、判りました。じゃ、後で」
 明希人さんから飲みの誘いだった。行きつけの店で落ち合い、飲み始めると、明希人さんはいつもより陽気に、海外サッカーの話――国内は一切しなかった――やガンダムの話をしながら、普段の倍のペースで飲んでいた。おかげで、俺は頷きながらも注意深く量の確認をしていて、自分はあまり飲めなかったくらいだ。
 だから、送っていった帰り際、マンションの部屋の前に着いたところで、不意に酔いが醒めたように真顔になって告げた明希人さんの言葉はすぐには理解できなかった。
「俺さ、出てくわ」
「え?」
「俺、ここ数年あちこちにレンタルに出されては戻されてたろ」
 あの頃から上――監督やフロント――とは合わなくなってきたんだと、彼は言う。
「嫌だ…」
 知らず、更に話そうとする明希人さんを遮っていた。
「嫌ですよ、俺。こんな、皆んな、バラバラになってくの堪えられない」
 言ってはっと気がつく。多分その思いは先輩で生え抜きである明希人さんの方が強いのだろう。だからこそ、彼は出て行くのではないか、見ていられなくなって。
 すると、明希人さんはこんなことを言い出した。
「一馬。お前も一緒に出ないか?」
「え?」
 俺の戸惑いなどお構いなしに話し出す。
「もう、上は1からチームを作り直すつもりだ。もっとも主力があれだけ出て行くんだったら仕方ないんだけど。多分監督も育成タイプの人を呼ぶだろう。何よりお前、代表目指すって言ってなかった?あの監督J2からは呼ばないって言ってるじゃん」
 確かにその通りだろう。そう考えて最初は俺も出るつもりでいたのだ。
「けど、俺は…」
 言い淀む。出て行きたくないという気持ちもあるのだ。どういう訳だか判らない。広島が落ちた時、英士にあんなにJ1のチームに移籍するように勧めた癖に、今の俺は自分の気持ちすら決めかねているのだ。そんな俺の逡巡を見かねて、
「まぁ、まだ悩む時間はあるからさ。それじゃ、ありがとな。またな」
 そう言って明希人さんはドアを閉めた。その音がやけに重く響く。

 …またな。それはできるだけ軽く響くように努力された声で。それはあの時の藤代の言葉とそっくりな響き方。だけど、それに返せるだけの言葉を今の俺は持ってなくて。俺は立ち尽くす。ただ、立ち尽くすしかない。迷って揺れる若さと青さを身に染みる程感じながら。

 藤代。お前はきっとこんな時でも迷うことなく、躊躇うことなく自分の道を選ぶのだろう。それに羨望と嫉妬を覚えながらも、俺は改めて数年前の出来事を思い出す。
 あの時、俺は酷いことを言ったんだな。同じ立場に立たされて悔やむよ、英士――。 




 それでも朝はいつもと変わりなくやってきて、時間は流れていく。ただ、それに乗り切れなくてぼんやりと過ごしている数日間。
 ソファの上でダラダラとしながらTVを観ているとチャイムが鳴り、出る為に立ち上がって、一つ伸びをすると肩がパキッと軽い音を立てた。少々鈍った身体が、今の心情にはぴったりかもしれない。そんなことを思いながらドアスコープをのぞくと明るい髪の色が見えた。「いらっしゃい」とドアを開けると一緒に冷たい空気が入ってきて俺は身震いをしながら、すばやく招き入れた。
「元気にしてたか?」
 靴を脱ぎ捨てるようにして上がりこむと暢気に結人は言う。その靴を揃えながらふと気付いて訊いた。
「あれ、英士は?」
 俺がそう言うと結人は頬を膨らませて言った。
「お前酷いなぁ、せっかく結人様が来てやったってのに」
 そんな結人の言い方は相変わらずのもの、この前の試合の時のことなど気にしていないようで。
「悪ぃ」
 俺は素直に謝った。
「元気ないなー。ほら、点天でも食え。英士はもうちょっと遅くなるってさ」
 紙袋のロゴを見るまでもなく、その匂いで中身は判った。食欲はなかったが、少し貰うことにする。食べていると無性にビールが欲しくなってキッチンへと立ち上がる。
「結人も飲むか?」
「ほな、貰うわ」
 冷蔵庫から缶を2本取り出した。それをグラスに注いで、意味も無く乾杯して飲んでいると再びチャイムが鳴って、英士がやってきた。
「何、昼間っから飲んでるの」
 半ば呆れた声の英士の問いにすかさず答える結人。
「ビール」
「ま、良いけどね。オフだし」
 結人の返答に英士は苦笑しながらも、キッチンでちゃっかりと自分のグラスを用意している。
「俺の分、ちゃんと取ってあるんだよね?」
 英士はそう訊いた。
「モチロン」
と、答える結人。だが英士の目は奥を見ていた。
「数が合わないけど、もう一つの箱は何かな?結人」
 何故か自信満々に答える結人
「俺専用」
 それを訊いて英士は本当に呆れた声を出す。
「ちょっと、一馬も何か言ってよ」
 そう言われて、俺は生返事をした。
「うん」 
 それを聞いた英士と結人が顔を見合わせた。
「…かなり悩んでるみたいだね」
 俺は正直に頷いた。
「ああ」
「一馬は、どうしたいの?」
 英士がそう訊いた。そこで俺は初めて今まで他人には話せなかった迷いを口にする。
「…笑われるだろうけど、どうしたら良いのか判んないだよ。俺、あのチーム好きだけどもう皆バラバラになっちゃうし。だけど、だからって俺も出てったら本当にバラバラになるし。でも、二人と代表になるって約束もしたし」
 そう、その昔。一緒にジュニアユースにいた頃の約束。学校では友達がほとんどいなかった俺にとって、結人や英士はかけがえの無い存在で。その二人とした約束があったからここまでこれたのだ。だが、レイソルに入って、チームメイト、トレーナー、サポーター、色んな人達との繋がりを改めて感じて、それもかけがえの無い大切なものになった。それを今どちらかを選べという。そんなのは選べない。選べる筈がない、俺には。
 そう思い悩む俺に結人がポンと肩を叩いて言った。
「なんで笑うんだよ。迷うのは当たり前やん、一馬。てか、生きてる限り迷う」
「それが人間だからね。迷わず全てを悟ってたら神様か仏様だよ」
 英士もそう言った。だが、俺は二人の言葉に自嘲気味に答える。
「でも、結局俺は明希人さんや、結人、英士の意見を聞かなきゃ決められない」
 それを聞いて英士は首を振って言った。
「俺だって迷って、色んな人の話を聞いたんだよ。いや、話を聞いたわけじゃないか。でも伝わってくるものがあった」
 先輩選手とのやりとり。そしてサポとの触れ合い。迷い、葛藤した中で、自分の居るべき場所、居たいと思える場所をその中で見つけたのだと英士は話してくれた。
「たださ、俺思うんだ。似たような状況なのに藤代は多分迷ってない気がすんだよ。それが悔しいような羨ましいような複雑な気分になるんだよ」
 それも正直な思い。それを聞いて英士は苦笑すると言った。
「あいつは天才肌だからね。それに、そういう態度を求められてるだろ」
「そうそう、悩んでる藤代なんて藤代やないやん」
 結人もそう言い、俺は頷いた。
「そりゃ言えてる」
 そして、気がついた。きっと、迷うことも迷わないことも、等しく苦しいことなのだろう。出て行くと言った時の明希人さんの表情。それでも出来るだけ明るく聞こえるよう努力された明希人さんの声、そして、あの時の藤代の声。追い越すべきライバルとしてしか見ていなかった藤代と、ちゃんと向き合ってみたいと思って。
「迷わないからこその苦しみもあるんだろうな。一度あいつとちゃんと話してみたいよ」 
 その俺の言葉を聞いた結人がにんまりと笑って言った。
「大人になったやん」
 きっとその通りなんだろう。俺は笑った。…でも。
「…なんか結人に言われるとムカツく」
「なんやて」
「まぁまぁ」
 俺の余計な一言に、膨れる結人に、宥める英士。それはなんだか懐かしいやり取りで、ひとしきり子供の頃のように騒いだ。

 冬の一日は短く、あっという間に陽は沈んで。帰り際、英士が言った。
「一馬、これだけは忘れて欲しくないんだけどね。僕らは代表になるって約束をしたけど、そのことだけに固執して自分を見失って欲しくはないんだ。代表になるってのはそれだけのプレイヤーになるって意味でしょ?どんな場所でも自分を高めることを忘れない、その気持ちを持ち続けることの方が大切だと思うんだ」
「英士」
「俺にそれを気付かせてくれたのは結人と一馬だよ」
 そう言って英士は微笑んだ。
「もちろん、一馬が出たいならJ1のチームでも良い。一馬のしたいようにしろよ。マスコミだろうがサポだろうが誰がなんと言おうと俺達はずっと味方だから」
「結人」
 結人はにっこりと頷いた。それにすっと心が軽くなる気がした。
「ありがとう、二人とも」
 支えてくれる友があることがこんなにもありがたいものだとは。俺は判ってるようで判ってなかったのかもしれない。
 感謝の念をこめて、俺は帰る二人の背をいつまでも見送った。

 その数日後、俺はクラブハウスにいた。
「俺、レイソルに残ります」
 フロントにそう告げた。
「本当に良いのか?」
 その言葉にそのまま頷くことは出来なかった。俺は正直な気持ちを口にする。
「…判らないんです、どうするのが一番良いのか。でも、今、楽な方に逃げたら、ずっと逃げ続ける事になるような気がするんです。だったら代表になれない後悔よりも、そっちの後悔をしない方が、俺は良いです」
「そうか、ありがとう」
 そう言って微笑まれた。
「これからもよろしくお願いします」
 俺はそう言って深々と頭を下げた。その俺を照らす窓から差し込む冬の陽射しは、弱くとも温かくて。日はまた昇り、季節も巡ってくることを俺は思い出す。
 帰ろうと歩いていた廊下で、声を掛けられる。振り返るまでもない、明希人さんの声だ。
「残るんだな」
「明希人さん。はい。俺、今までお世話に…」
 振り返ってそう言って、頭を下げかけた俺を明希人さんは止めた。
「別れの挨拶は言うなよ、寂しくなるじゃん」
「でも、俺は明希人さんとここで一緒にプレイ出来て、色々学びました」
 俺がそう言うと明希人さんはふっと目を細めて
「…そっか。これから大変だと思うけど、頑張れよ」
 そう言って、俺の頭をくしゃくしゃっと乱暴に撫でた。
「はい。明希人さんも」
 俺はそう返した。そして、
「また会おうな」
と言われて、俺は自然と手を差し出していた。明希人さんがその手を握り返した。もう片方の手で肩をポンと叩き、彼はそのまま俺の横を通って、去っていった。それは試合前の挨拶にも似ていて。俺はこれからまた始まるのだと、彼の背中を振り返りながら思った。





 試合開始をまもなく控えた選手入場口。
 久しぶりに会った明希人さんはアウェイのユニフォーム姿だった。それを見て俺は言う。
「まさか明希人さんと戦うとは思ってもみませんでしたよ」
「まあな。それにしても良い顔してるじゃん」
 明希人さんは頷きながらそう言った。俺はそれに首を傾げる。
「俺がですか?」
「…良いな、若いって」
 そんな溜息混じりの声に
「そんな、明希人さんもまだ若いじゃないですか」
 俺はそう言い返す。だが、明希人さんはこう言った。
「判るさ、そのうち」
 その言葉にまた首を傾げる俺を見て、明希人さんは笑う。その笑顔に
「勝ちにいきます」
と告げると、明希人さんも返した。
「ああ、うちもな」


 サポの声が一段と大きくこだまする、日立台。
 重く垂れ込めた曇天の下、照明が俺達を照らしている。まるで俺達の道をも照らすように眩しく。その光を浴びた芝の緑は鮮やかで。
 その光景に不意に思い出したブラックアウト。
 あの時、本当に消えたのは俺達の中の灯火、希望だったのかもしれない。
 …だから今度は消えないで、今、俺の中にある灯火よ。いや、消さない。消させない。
 
 開始を告げる笛が響いて、俺はボールを蹴り出した。










(FIN)
2006.11.16UP
BGM:ASIAN KUNG-FU GENERATION「ブラックアウト」
※あくまでもフィクションです
試合の内容及び結果が限りなくノンフィクションに近くなってますが、フィクションです。
万一当事者サポの方がいらっしゃったら申し訳ありません。