…それでもとりあえず、今を
メンバーが発表され、合宿は無事終了。 解散となって、俺達は寮へと向かう。 ――日常に戻るために。 4人で歩きながら、俺は間隔の取り方に違和感を感じた。 まぁ、そりゃそうだ。 この中で俺だけが落ちているんだから。 …どうしようもなく、居心地が悪い。 きっと寮生活でなけりゃ、こんなとき一人っきりになれるのに。 いっそ反対側の電車に乗って遠くに行きたい。 そんなことさえ思う。 …別に泣きたいとか、そういうのじゃない。 ただ、一人になりたかった。 …どうしようもなく、居心地が悪い。 乗り込んだ電車で俺はわざと離れたドア付近に立っていた。 ただ一人で車窓を流れる風景をただずっと眺める。 すこし離れた席で藤代と渋沢が何か話している。間宮はその向かいに座っている。 …間宮は相変わらずだとして、藤代は嬉しそうだ。 そりゃそうだろう。 お気に入りの上水の水野や風祭と一緒のチームになれたのだし。 その横で、渋沢がそんな藤代に頷いてやってる。 ――渋沢は俺に何も言わない。 ただ、その目が。 何か言いたげで、…俺は。 結局ほとんど言葉を交わさぬまま寮に着いた。 「じゃ、また明日」 そう言って、藤代と間宮はそれぞれの部屋に戻っていった。 そして俺と渋沢は自分たちの部屋へ向かう。 渋沢がキーを取り出しドアを開ける。 始終無言。 その所為で。 パタンとドアの閉まる音が大きく聞こえる。 パチンと照明がつくなり、俺はあまりに深い沈黙にたまらなくなって言った。 「…言いたいことあるんなら、言えよ」 そんな物言いで、いつものスタイルを取ろうとしても、イマイチ上手くいかない。 「三上」 渋沢は俺の名だけ呼んで、ふと腕を回してきた。 俺はその腕の中で抗う。 「慰めか?同情か?はん、馬鹿にするなよ」 口の端をあげてそう言う。 「俺は――」 それくらいじゃ、負けてやらない。…と言って腕を振り払おうとして、止まった。 ――目の前にある渋沢の瞳に映る自分は…やっぱり何処か悲愴で。 …きっと何処かで結果はわかっていたはず。 だから必死だった。 やるだけやったはずだ。 だから悲しくはない。 ダメでも、まだこれからだ。 ――だけど、 何だろう、この胸に刺さるのは。 その痛みがあって、自分じゃどうしようもないから、 この温かい腕を振りきれない。 ふと渋沢が呟いた。 「…俺だって怖いんだ」 何がなんて聞かない。 それはわかりきっている。 もし… If you are... もし… If I can be... なぁ、明日はこんなにも怖いモノだったか? …抱きしめられた腕はこんなにも温かいのに。 「俺はいつまで…」 そう言いかけた俺の唇は唇で塞がれた。 「――聞きたくない」 渋沢はそう言って微笑んだ。 「ああ」 俺はそう頷いて、強く抱きしめてくる渋沢に自分の腕を回す。 そのまま格好でベッドに倒れ込み、二人で眠った。 そう相手をしっかり抱きしめたままで。 …二人とも不安なんだ。 『いつまでお前の横に居られる?』 なんて、 立場は違えど同じことを思ってる。 でも止そう。 そんな先のことを考えるのは。 「今」があるじゃないか…。 俺は確かにここにいて、こうして抱きしめられていて、 明日になればまたチームで練習が始まって、 ――そうやって生きているんじゃねぇか。 …他に何があるってんだ。 機会だってまたあるだろう。 だから…だから… ――だけど? 希望は捨てず、でも不安もうち払えず、 俺は渋沢の腕の中で寝たふりをし続ける。 夜半過ぎ――。 (Fin) |